株式会社フジクラは、早くから障がい者雇用に力を注いできました。現在も、社会的責任とノーマリゼーション実現の観点から、積極的に障がい者雇用を行い、障がい者の職場環境の整備に取り組んでいます。「ダイバーシティ」や「働き方改革」が広く浸透していく中で、フジクラが、今後どのような展望を見据えて、障がい者雇用を推進していくかは気になるところです。
今回は、障がい者雇用を通じた企業姿勢やこれからのあり方について、コーポレートスタッフ部門の執行役員の齊田昭氏にお話を伺いました。
齊田氏は長年、営業の業務に携わり、2021年からコーポレートスタッフ部門長に就任。その後、障がい者雇用をはじめとする人事に携わっています。まずは障がい者雇用との関わりについてお聞きしました。
「障がい者を活用できなければ社会の大きな損失」

2021年度から人事のトップとして、障がい者雇用に関わっているとお聞きしています。
就任当時の印象はいかがでしたでしょうか?

自分はまだまだ勉強することはたくさんあるなと思いました。障がい者雇用に関わることになり、その分野の方の話を聞いても最初は良く理解できない状況でした。勉強不足で、会社のある一面しか知らなかったのだと痛感しました。

全くゼロからのスタートということでしょうか。

はい。人事担当になりましたが、法定雇用率という言葉があることしか知りませんでした。
また障がい者の人口比率(※現在は約7.4%)を聞いて正直、ビックリしたことも事実です。
色々と勉強していく中で、当社の社会的な役割として、障がい者の方が働いていただける環境と能力を発揮していく場をつくることがミッションだと思いました。
また、障がい者の就労を活用できなければ社会にとっても大きな損失になると感じました。

「価値観の多様化、ビジネスの変革に対応」

実は私も(※インタビュアー増本裕司氏)、10年前に脳溢血で倒れて障がい者となり、その時はじめて
「世の中にはこんなにも多くの障がい者の方がいるんだ」と実感しました。
障がい者雇用となると、多様な人材を活用する「ダイバーシティ」と関わってきます。
では「ダイバーシティ」についてどのようにお考えかをお聞かせください。

価値観の多様性が求められていることは確かですね。当社は、1885年から日本のインフラづくりに貢献してきました。
特定のお客様へ「高品質に」「安価に」製品を供給して、戦後の高度経済成長と共に歩んできたのです。
これは当社に限らず、日本のどの製造メーカーも同じで、非常にシンプルな構造でした。
ところが、そういったシンプルな構造だけでは非常に難しい状況となり、違ったビジネスモデルや分野を求めて、ビジネスに変革が求められるようになっています。
社会が多様化してきて、これから様々な分野に進出するために、製造業にはない発想や考え方、能力を持った方に入っていただくことが必要です。そうしなければ、これからの多様化する社会や未知なる分野に進出していくのは困難だと思います。
「しなやかな強さを持つことが今後の課題」

「ダイバーシティ」の中に障がい者雇用があるということですね。

その通りです。現在、「障がい者の方にもっと働いてもらいましょう」という社会環境になっています。当社も障がい者雇用という点では、部門ごとに状況についての集計表を作成しています。
そして障がい者への雇用促進はもちろんですが、「ダイバーシティ」という観点で捉えれば、「もっと女性や外国人の方にも働いてもらいたい」という要請が世の中の動きとしてあります。当社は外国籍の社員は自然と増えていますが、女性社員の人数がまだ足りないのです。
これからは企業自体が多様性を持つことは、不可欠になります。そうしなければ、真の意味でのレジリエンス=しなやかな強さを持つことはできません。
当社にはレジリエンスを備えるための、何か強いメッセージがまだ欠けているかもしれませんね。それが今後の課題になるかと思います。


では次は、「働き方改革」についお聞かせください。
「働き方改革」は本来、単に労働時間を減らすといったものではないと思います。
その辺りをどのようにかみ砕いて人事に落とし込んでいますでしょうか。

労働時間を単にカットするのは、本来の目的ではないですよね。先ほども申しました、「ダイバーシティ」=多様性を持った方に気持ちよく働いてもらうためには、今までの時間軸の評価とは別の、生産性が重視されていきます。
そのために長時間働くことを是正して、脱却するために改革を行いました。在宅勤務や有給休暇を時間単位で取ることを推奨するなど、様々な制度を改革して、長時間労働を解消して、働きやすい環境を整えています。また世の中では「働き方改革」と言われていますが、私たちは「働きがい変革」としてプロジェクトを進めています。

「Win-Winの関係で、『働きがい』を感じていただく」

「働きがい変革」とは具体的にどのようなものでしょうか。

一人ひとりの社員が会社に来て、色々な仕事をする中で、もっとイキイキと働けるように、そして社員一人ひとりのエンゲージメントを高めてもらうことが第一としてありますね。
また組織で働いて、もっと自己実現の欲求を満たすためのサポートをしていく必要があります。社員の方に働くための体験価値をあげていただき、お互いがWin-Winの関係となり、「働きがい」を感じていただく。
このことを推進するのが「働きがい変革」となります。
そして具体的にどのような取り組みが必要かということで、社員の皆さんがどういう意識でいるのかを調査しました。さらに分析をかけて皆さんのエンゲージメント高めてもらうにはどうしたら良いのかを取り組んでいるところです。当社としては制度、ツールを用意して働きやすい環境を整えながら、社員の皆さんに「働きがい変革」をさらに進めていただこうと考えています。

「働きがい変革」は、今、山登りに例えると何合目ぐらいですかね。

まだはじまったばかりと思っています。やはりマインドセット=心構えを社員の皆さんに変えていっていただく必要があります。
というのも、今まではお客様の注文に応えて、一生懸命に製造を行ってさえすれば良かったのです。
それは非常に尊いことでありますが、どうしても「待ち」の姿勢になっていまします。これからは「待ち」の姿勢ではなく、お客様やマーケット、ステークホルダーに出向いて、「自らが獲得にいく」ことが重要になります。
その姿勢こそ、お客様の期待を超えるもので、社員の皆さんには「働きがい変革」につながると思います。「変革」ですから、まだまだ時間がかかると思いますね。そういう意味では、まだ一合目にすら達してないかと(笑)。
「ぜひ皆さんの能力を発揮していただきたい」

ありがとうございます。
最後に、フジクラで働きたいと考えている障がい者の方たちに期待することを教えてください。

ありがたいことに当社は障がい者の方たちの定着率が良く、10年以上働いている方が全体の半分近くです。
長い方で30年以上働いていただき、お互い良い関係がつくられていると思います。
そして働いていただくからには、存分に能力を発揮していただくことが大前提としてあります。能力を発揮できる環境とマッチングできれば、障がい者の方たちに入社していただくのは会社にとっても大変意義のあることです。
例えば、全盲の方が芸術的な才能が開花することがあると聞きます。皆さん、何かしらの才能を秘めているはずです。その一部を当社の業務、事業に活用いただくために、ぜひ入社して、大いに活躍していただければと思っております。

インタビュアー増本裕司氏 / 株式会社アクティベートラボ 代表取締役
「より多くの障がい者が人生を楽しみ、活躍できる環境を作りたい」と考え、同社を設立。身体障がい者である自身の目線で、日々奮闘中。